† † † † † † † † † † † † † † † 痛い。 やることは、たくさんあるのに。 しなければならないことは、数えられないほどなのに。 何も、したくない。 ただ、胸が痛い。 貴方のせいではないのだと。 誰もがそう言うけれど。 心の中では、僕を憎んでいる。 僕を利用しようと。 僕を道具にしようとする、奴等のために。 彼は、死んだ。 いなくなってしまった。 お前さえいなければ。 お前がいなければ、彼が死ぬことは無かったのに。 そう、僕がいなければ。 しかし僕は、いなくなるわけには行かない。 彼はもういないのだから。 自分の身を守るために。 僕を恨む、彼らを守るために。 僕は、生きなければならない。 何も、したくないのだけれど。 奴等に操られるわけには、行かない。 だからオレは、必死に生きた。 自分の国を守るため。 だが、たまに不安になることがある。 このままでいいのだろうか。 いつかこの国を滅ぼしてしまうのではないか。 いつも自分に問いかける。 答えはまだ、見つからない。 時々、旅をしたくなる。 逃げ出してしまいたくなるんだ。 この、窮屈な城から。 皆に慕われていた先王が死してから、1年が経った。 草原の大国ゼブルスは今、新しい王に治められている。 現在ゼブルスを治めし王は、未だ幼いながらもその才覚を示していた。 大臣達の傀儡となることも無く。 「はぁ〜〜〜っ疲れたっ」 王城の執務室。国王、kikoは本日のノルマを達成した。 「がんばったから今日はもう自由時間だ。午後はずっと遊べるぞ!」 国王は未だ10歳。遊びたい盛りでは、あった。 「よし、外に行こう。」 無邪気な笑みを浮かべながら、呟く。 止めるものは、近くにいない。 数分後。kikoは、城の外に立っていた。 「警備兵なんてちょろいな。もう少し訓練を強化するか?」 軽い調子で言いながら、城下町へと向かう。 服は質素なものを選んでいるから、それほど目立ちはしないだろう。 質素なものでも高級ではあるし、金髪碧眼の色白美少年はとても目立つものなのだけれど。 彼は、それに気付いていない。 ・・・城から出るのは久しぶりだ。王子だったころは、よく城を抜け出して来たものだったけれど。 最近は忙しくて、自由な時間などほとんど無い。 周りにいる者達はなぜか自分を表に出したがらないので、王家の人間として国民の前に出たことも無い。 幼き王が会うことができるのは、城に勤めている人間と、他国からの使者だけ。 だから黙って城から抜け出すより他に、国の様子を知る術は無い。 国民の前に出たことが無いというのは、身分を隠すのにちょうどいいことではあったけれど。 民は、王の顔を知らない。 そして、町。 町は平和で、賑やかだ。この町の喧騒を聞いていると、心が落ち着く。貴族達のくだらないお喋りよりも、こちらの方がよほど性に合っている。 自分は町人に生まれるべきだったのではないかと思う。 目的も無く歩いていると、曲がり角で、向こうから歩いてきた女性にぶつかった。 「あ、ごめんなさい!大丈夫?」 「ああ・・・それにしてもすごい荷物だな。片付けるの手伝うよ。」 二人で、黙々と荷物を拾う。本当にすごい量だ。 「こんなに沢山の荷物、どうするんだ?」 kikoが訊く。年長者に対しての敬意がまったく見られない口調だが、不快ではない。 「私、仕立て屋で、国王様の服を作るの!今日は寸法を測るんだけど、自分の道具じゃないと落ち着かなくて・・・」 仕立て屋・・・そういえばそんなのが来ると聞いたような気もする。道理で今日はいつもよりノルマが少なかったはずだ。いつもは大臣達が丸1日かけなければできない量の仕事を持ってくる。自分の孫ほども年下の王に頼らなければならないとは、無能な奴らだ。 「ねぇ、国王様に会ったことある?ないでしょ?私も無いもの。とても美しいってうわさは本当かしら?まだ幼いのに大変よね。父君と母君を1度に亡くしてしまわれて・・・」 少し、驚いた。 ご機嫌取りのためでなく、本当にオレのことを思ってくれる人がいるとは。 国民とは、そういうものなのだろうか。 信じても、いいのだろうか。 「少し持って行ってやるよ。オレも城に用があったんだ。」 それは、寧ろ逆だったのだけど。 城に帰りたくなど無かったけれど。 目の前の人が喜んでくれたから、それでよかった。 彼女は、希望をくれたから。 誰も、信じることができなくて。 周りのものは皆、敵だった。僕を操ろうと、弱みを握ろうと、冷たい眼で僕を見つめた。 隙を見せることは、できなかった。 両親は、事故にあった。 大臣の誰かに、殺された。 僕も、いつか殺される? 誰も、信じることはできなかった。 そう、オレは・・・・・ イツモ、ヒトリ、ダッタ。 仕立て屋が警備兵に何やら通行証のようなものを見せ、門をくぐる。オレのことを弟子だとでも思ったらしく、見咎められることも無い。 自分が仕えてる国王の顔くらい覚えとけ。 「…寸法ってどこで測るんだ?」 「えと…とりあえず応接室に行くように言われてるんだけど…?」 直にオレの部屋って訳じゃないのか・・・外に出ていたことがばれると少し厄介なことになるかもしれない。 城の建物の中に入ると、使用人たちがせわしなく歩き回っていた。 もうばれてたのか・・・ オレは裁縫道具を軽く持ち上げ、さりげなく顔を隠す。 そんな細やかな俺の苦労を知ってか知らずか(いや、確実に知らないだろうが)、仕立て屋は近くの使用人を呼び止める。 「どうかしたんですか?」 「…国王様が居なくなってしまわれたのです!置手紙も何も残っておりませんし、今、城中の者で捜索しているところなのですが…!」 おいそこの使用人A。そんなに細かく説明せんでよろしい。てゆーかするな。 案の定仕立て屋は大げさに驚く。 「まあ、それは大変です!私も国王様を御捜しするのを手伝います!」 あーそーいう奴だろうと思ったよ仕立て屋。大体お前国王の顔分かるのか?分かんねーだろオレに気付かないんだから。 「まずは応接室にこの荷物を置いてきます。応接室どこですか?」 仕立て屋は再び使用人Aに訊く。だからそーいうことは気にしないで良いっての。 使用人Aも律儀に道順を教えてやっている。荷物なくなったら顔隠せないじゃねーか。 勿論逃げるつもりは無いが、見つかるのが遅れればそれだけ自由時間が長くなる。 「ありがとうございましたっ」 仕立て屋が使用人Aに礼を言い、歩き出した。 オレも顔が見えない様に細心の注意を払いながら会釈し、仕立て屋についていく。 「本当に捜すの手伝うのか?」 比較的人通りの少ないところに来ると、オレは仕立て屋に話しかけた。 人が多いところだと、声で気付かれたらと思うと迂闊に話すこともできない。 「ええ勿論よ。人が困っているのを見捨てては置けないわ。」 この場合の困っている人というのは使用人たちのことだろう。 間違ってもオレのことでないことは確かだ。 その内に応接間に着く。 そこには、大臣の一人が立っていた。何度か会った覚えがある。まだ若い様だが、暇な奴だ。他にすることは無いのか。 仕立て屋を見ると、にこやかに話しかける。 「ああ、仕立て屋の方ですね。今は少し都合が悪いので、暫くお待ちください。荷物はここに置いていて下さって構いません。」 お前には大臣としての威厳ってものが無いのか。下々の者に敬語なんか使わんで良い。 そんなことよりさっさとでてけ。荷物が置けんだろーが。 「それでは暫くお待ちください・・・」 オレの心の声が聞こえたというわけではないだろうが、大臣Aはすたすたと部屋を出て行った。 オレは荷物を手近なテーブルの上におく。 そして新たな問題は仕立て屋。 「じゃ、私達も探しに行こうか。」 「いやいいだろここで待っとくように言われたんだし?」 下手に動き回って見つかるのも面倒なだけだ。 「良いじゃない行きましょう!」 仕立て屋は勝手にオレの手を取って扉を開けた。 そしてそこには先程の大臣が面食らって仕立て屋を見ている。 少し間があったが、暫くすると正気を取り戻したらしく、笑顔を作る。 城に住んでいると表面上の性格だけを取り繕うのが上手くなるのはどうやらオレだけではないらしい。 「ああ、ここで待っていてくださって結構ですからあそこの椅子にでも座っておいていただけますか今使用人にお茶でも持ってこさせますので・・・?」 一息でそこまで言ってのけてからオレの存在に気付いたらしくじっと見つめられる。 オレはさりげなく仕立て屋の後ろに隠れ顔を背ける。 気付かれないほうがおかしいか。 どうもオレの自由時間は終わったらしい。 「何してるんですかkiko様こんなところで!?」 「仕立て屋を迎えに行っていた。」 「そんなことしないでいいですからこちらに来てください!」 ほらほら焦ると化けの皮がはがれるぞ。笑顔はどうした笑顔は。 オレの隣にも焦りまくっている奴がいるようだが。 「えぇっ国王様だったの!?でもそんなだって何であんな街中にいるのそんなわけ無いじゃない今まで見たことも無かったのにってゆーか私手握っちゃったわきゃーどうしよー!!!!」 「…そんなことは気にするな。寸法はどこで測るんだ?」 後半部分は大臣へ。大臣は何とか立ち直っているようだが、笑顔を浮かべる余裕は無い様でほぼ無表情だ。 人生余裕が大切だぜ? ・・・オレの言えた事ではないが。 部屋を移動し、寸法を図った。 その後すぐに服のデザインも決めるらしく、オレは仕立て屋の作業を見ていた。 これなら別に隠れて無くても良かったじゃないか。 仕立て屋が帰ったあと何人かの大臣に説教をされたが、そんなものをまじめに聞く奴なんていないだろう。 今日は何だか疲れた・・・でも、なかなか楽しい一日だったな・・・ kikoはすぐに深い眠りへと引き込まれた。 以前人生が楽しいと思ったのはいつのことだっただろうか。 もう、ずいぶん昔のような気がする。 まだ、誰かを信じることはできないけれど。 いつか、ヒトのことを信じられるようになれたら。 いつになるかは、分からないけれど。 その日は、きっと遠くない。 |