さくらの部活日誌B

 

『さわさわ さわさわ』

草むらから聞こえる音は、二人の前でピタリと止まった。
「(芽衣子ー!!)」

「(さくらー!!)」

二人は声にならない叫び声をあげ、じっとしていた。やがて・・・・、

『・・・・ニャー・・・・』

「にゃー??!!」

草むらからネコが顔を出した。小さい黒いネコだ。しかし子供のネコではない。

さくらと芽衣子は近づいてきたモノの声を聞いて少し拍子抜けをした。

「なーんだネコなのか。脅かさないでよね。」

芽衣子はほっとしてその場に座り込んだ。さくらはあることを思い出した。

「!!芽衣子!ネコよ!この子が後輩の言っていたネコ?」

「えっ?ネコ?」

「そうよ!道案内してくれるネコよ!!」

二人の会話を聞いてか聞かずかネコはくるりと振り返ってもと来た道を帰っていこうとした。

「芽衣子!追いかけるわよ!」

「えっ?でも・・・」

「ぼやぼやしていると見失うわよ!行くよ!」

芽衣子は小さくうなずき、荷物を背負った。
ネコはそんなことはお構いなしにゆっくりと歩いていった。
「もしも、このネコが後輩たちの言っていた『道案内のネコ』だったら私たちを山の入口に案内してくれるわよ」
「でも・・・せっかくここまで来たのにまたふりだしに戻るの?さくら」

「そうだけど・・・、道案内するネコなんてめったにいるものじゃないわよ。
ここまでの道のりはもう覚えたからもう1回ここに来ることは簡単よね。島村君の家も探せて、部活のレポートもできる。これぞ一石二鳥よね」

目を輝かせて話すさくら。もうさっきまで怖がっていたそぶりは感じさせない。

芽衣子はやれやれという表情を浮かべてさくらについていった。

ネコはゆっくりと山の中に入っていく。それに続く二人。当然先ほど二人が登ってきた登山道とは違う道のりだ。

さくらは少しでも引き離されまいとネコについていく。芽衣子は少々おびえながらもあたりを見回して景色を覚えようとしていた。
15分ぐらい経っただろうか。ネコが急に立ち止まった。二人はネコのいる先が数十分前に自分たちが立っていたバス停前とわかった。

「やっぱり道案内してくれるネコだわ。はっ !写真を・・・」

ネコは用が済むとさっさとどこかに行ってしまったようだ。

「くぅー!しまった!!私としたことが!!」

思いっきり悔しがるさくら。

「とりあえず、『道案内のネコ』の話は本当だったわね、じゃあ、気を取り直して、島村君のおじいさん家を探しましょう!」
芽衣子はあらためて今日ここに来たのはとーるの祖父宅を探すためとさくらに再認識するためにあえてこう言った。

「はいはい。じゃあもう1回登りましょうか」

さくらと芽衣子は本日2回目の登山に入った。

一度は通った道なので二人は先ほどの休憩場所にもどるまで時間はかからなかった。

「さあ元に戻ったことだし、あらためて島村君の家を探すぞ!」

芽衣子は気合を入れた。

「おう!」

さくらも続く。

「にゃー」

「えっ?にゃーって??」

二人の足元に先ほどのネコがちょこんといた。

「芽衣子。さっきのネコまた来たよ」

「うん。まただね」

二人の会話を聞いているのかネコは少し首をかしげている。するとネコはくるっと反対を向いてすたすた歩き始めた。今度は先ほどとは違う方向だ。

「ちょっと、待ってよ〜」

さくらはネコのあとを追いかけ始めた。

「ちょっ、ちょっとさくら。またそのネコについていくの!」

芽衣子はさくらの後を追いかけた。ついて行きたくないようだ。

「さっきと違う方向よ、ついていくわよ!」

「もう!またバス停に行ったらどうすんのよ!」

「あはは、そんなことないって。方向違うもん」

「もう知らないから。元に戻っても」

芽衣子は頬を膨らませ半ばあきらめてネコとさくらについていった。

 

それから10分後。さくらと芽衣子は登山口のバス停前にいた。

「さくら・・・・これはどういうこと・・・」

「はい・・・、返す言葉がありません・・・」

芽衣子はかなり頭にきているようだ。

「さくらくん。今日の私たちの任務は何?」

「はい、島村透 祖父宅捜索作戦です・・・・ 」

「だったら、3回も同じ場所に来るのは作戦のうち?」

「いいえ・・・・すみません。もう追いかけません」

さくらたちは本日3回目の登山を始めた。

さすがに2回も同じ道を通っていると慣れているのですぐに元の場所に戻ってきた。

さくらは気が引けたのか黙っていた。その間芽衣子も黙っていた。怒っているようには見えなかったが、なにやら考え事をしているようだ。

「今度はネコが来ても無視するわよ」

さくらは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。だが今度はネコは出てこなかった。

「出てこないみたいね」

芽衣子はやれやれという表情でつぶやいた。

休憩もそこそこに二人は休憩場所を離れて登り始めた。

「予定だと登山口から20分ぐらいで家は見つかるってさっきのおばさんが言っていたからそろそろ見えてくるかもね」

さくらは芽衣子に話す。芽衣子は黙って歩いている。

「ちょっと、芽衣子・・・・。もしかして、おこってる?」

芽衣子はまだ黙っている。少々さくらはむっとして、

「ねえ芽衣子!聞いてる?」

「えっ?なんか言った?ごめん考えごとしてて」

おこっている訳ではなさそうなのでさくらはほっとした。

「どうしたの?考えごとって」

「うん。ちょっと気がついたの・・」

「どういうこと?」

「最初にバス停でおばさんに『よこしまな気持ちを持った人が山に入ると必ず迷うらしい』というこの山の言い伝えと、
ここで迷ってしまった後輩たちの話。それと頼みもしないのに出口に道案内してくれるネコ。すべてをつなげていくと同じ理由に行き着くのよ」

「どういう事」

「それは、『 この山が部外者を決して受け入れてくれない 』てこと」

「えっ?ここは何の変哲もないただの山でしょ。確かにハイキングできる山とは違うけど」

さくらは反論する。しかし芽衣子は、

「ううん、違うの。今までの話をつなげるとそうなるの。そう、迷った後輩たちは当然部外者だから迷って当然だった。
さっきのおばさんは私たちにこう警告してくれた。『部外者は気をつけろ』って。当然私たちは迷うから、『ネコに助けを求めろ』と。
おまけに2回もネコに警告を受けたのに私たちはそれを振り切って先に進んだ。当然3回目にはネコは出てこなかった」

「ということは・・・」

さくらは少し恐々とはなす。芽衣子はつづけて、

「私たちはたぶんもうすぐここで迷ってしまうってこと。おまけにもうネコは出てこない」

「そっそんな。もうすぐ家が見えるでしょ!!」

「でももう10分以上歩いているわよ、家なんか見えてこないじゃない。さっき気がついたけど景色がいつまでも変わらないのよ」

「!!!私たち迷ったの?」

「たぶん・・・さくら、どうしよう・・・」

二人はこの山で迷ってしまったようだ。彼女の後輩たちと同じように。

さくらはカバンから自分の携帯電話を取り出して、

「芽衣子、これで島村君に連絡を・・・あっ圏外だ」

携帯電話で助けを求める方法は山の中では使えなかった。

「とにかく元来た道を引き返そう」

二人は足早にもと来た道を引き返し始めた。先ほどまで通ってきた道のはずだが時間がとても長く感じられた。
しかし、いつまでたってもネコに出会った休憩場所まで戻れない。

「さくら!どうしよう!」

芽衣子は半分涙声になっていた。

「とにかく、戻るのよ。芽衣子」

しかし二人の思いとは裏腹にいつまでも景色は変わらない。二人は気持ちを落ち着かせるためにいったん休憩することにした。

「こんな事なら芽衣子の荷物をすべて持ってきたら良かったのかしら」

「そんなことないよ。あんな荷物もっていたら3回も同じ場所通らないよ」

「重たかったよね。ねぶくろも入っていたから」

二人はお互い迷っていることを忘れるように話をした。

しかし状況はまったく変わらない。

「ねえ、さくら。私たち帰れるかな?」

芽衣子がつぶやいた。

「大丈夫よ!大丈夫と思う。たぶん大丈夫。」

さくらもかなり不安に思っていた。

すると、急にさくらたちの周りの木々がさわさわと揺れだした。そよ風がふいている感じではない。

「芽衣子、なにか来る!」

「さっきネコなのかしら、だったらいいのに」

芽衣子は祈るようにつぶやく。

しかし、ネコがくるような音ではない。もっと大きなものが通る音だ。

二人は先ほどのネコに出会ったときと同じように息を潜めた。

音の主が現れた。

「こんなところで何をしているのだ、君たちは」

現れたのは一人の若い女性だった。

 

Cにつづく…