座敷童子

第三話「あんず」

深い森と、そびえたつ山に囲まれた日本家屋。
それが祖父の家だった。
その様子は10年前となんら変わってはいなかった。
小さい頃に覗き込んだ井戸も、かくれんぼした蔵も。
そして、よく登ったこの大きな樹も―――――――

「透」
通された畳張りの居間に座り込んで、その樹をジッと見ていた透に話しかけてきたのは桂、そ
の人であった。

「ほうけているな」
着物を着て腕を組んだまま、桂は笑って見せた。
「誰のせいだろうな」
「真樹から聞かなかったのか?」
「何を」
「私が昨年、死んだということをだ」
「・・・」
少し考え込んでから。
「聞かない」
ハッキリ答える透。
その様子にふっ、と吹き出す桂。
「そうか――あの子は言わなかったのか」
「・・・」
「私は死んだのだよ」
「・・・へー」
「へー?」
気のない返事に驚いたように、桂は組んでいた腕をほどいた。
「・・・まだ信じていないのだな?」
「俺は受験勉強しに来ただけだから」
「・・・透」
「そうだ、適当に部屋借りさせてもらっていい?」
そう言って透は立ちあがった。
「待て。聞かなくていいのか、私の話を」
「いいよ」
「き、気にならんのか」
「別に」

本当はとても気になる。
なぜ死んだはずの人間がここにいる?
しかも若いままで生きている。
葉を切ったときにでた、うみのようなものはなんだ? 
生まれ変わりとはなんだ?

でも、気にしていたら『静かに勉強するために来た』目的が果たせなさそうで。
がんばって目をつぶる。

「知っておかないと、苦労するぞ」
「何の苦労だよ」
すこし笑いながら答える透。
「この家に棲む、おさ」
「いよーーーっス!かっちゃん!!」
「!?」

どこからか、女の子の声が聞こえた。
心なしか壁の向こうから聞こえたような・・・
そう思って透は白く所々にヒビの入った壁を見た。
にょにょにょ
「!?」
透は危うく声を出すところであった。なんと、突然壁から白い足が出てきた。
にょにょ
その足がひざくらいまで出ると、次は手が出てきた。
「うーんっ」
すぽんっ

やがて一気に顔が出てきた。と、同時に全身が透の前にあらわとなる。
「寝坊してしまいましたっ!」
手を額に当ててニコッと笑顔で言う少女。
(だ、誰だ――!!)
その前に
(何者だ―――!!)

桂もため息をついて少女を見る。
「あ、あんず・・・?」
「はいな!」
「壁から突然出るのはやめてくれと言わなかったか?」
「忘れた!」
あんずと呼ばれるその少女は、一見フツウの少女で、年は見たところ10歳未満だろう。
着物を着ているが、帯の部分に大きな黄色いリボンがついている。
夏だというのに、この格好はなかろう。

(桂じいのシュミかな・・・)

気を紛らわすためにそんなことを考えてみる。
しかし、それは打ち砕かれた。

「誰?このオッサン」
痛恨の一撃。

「オッサ・・ン」
「かっちゃんの知り合い?」
「私の孫だよ」
「とゆーことは真紀ちゃんのコドモ?」
10歳未満の少女が言うセリフじゃない!
「そうなるかな」
「まさか、とーる?」
「覚えていたか、あんず」
「うん!あんず覚えてるよ!」
そう言ってあんずは子供らしい笑顔を見せる。

そのかわいらしい笑顔に、透は一瞬顔を赤らめる。
(ああ、そうだ、きっとさっきのは幻覚だな。
こんな山奥だし、暑いし、受験勉強ばかりしていたから疲れていたんだ。幻覚を見ても仕方な
いよな)
この子は自分が忘れているだけで、昔、一緒に遊んだ女の子とかなんだ。
だって、自分のことを「覚えてる」、って・・・

「連続四日間、おねしょした奴!!」
「どわへ――――――っ!!」
思わず大きな声を張り上げる透。
「な、何言ってんだコイツっ、そんなの昔のことだっ」
「コイツじゃないのっ、あ・ん・ず!!」
そう言ってあんずは、透の頬を両側からむにゅうーと引っ張る。
「あははは!顔がせんべえみたいになったあ」
「おふっ、はめふぁ!ふあひふっ!」
「アンタのことはね、あんずは前から知ってるんだからっ」
「ぷはっ、なんだよソレっ」

頬から両手を離したあんずに向かって叫ぶ。
ちなみに。さっきあんずが壁を通り抜けたことは、幻覚とということで、勝手に自分で納得した。

「俺はお前なんか知らないぞ」
「あたしは覚えてるよ!」
「だから知らないって」
「透」
さえぎるように桂が言葉を発した。
「お前には見えていなかっただけなんだよ」
「は?」
「そゆこと!そゆこと!」
「まさか・・・」
無言で桂は透を見据える。
「この髪型・・・この着物・・・さっきの壁抜け・・・まさか・・・」
「わかったか」
「ああ。コイツはスパイだな!!!」
「は」
「こんな子供らしい可愛い格好と、アメリカ生まれの迷彩科学を駆使して俺を査察していたんだ
な!」
「お前の何を査察させる気だ」
「コイツじゃない〜!あ・ん・ず!」
「目的は知らないがと、とにかくコイツはスパイだ!」
「コイツじゃないったらあー」
「桂じいまで俺を騙して・・・・!!信じてたのに!」

バゴッ

「私がお前に何をしたと・・・?」
ゲンコツを透に食らわしてから据わった目で言う。
「だ、だってその顔で70歳は嘘だよ・・・。桂じいちゃんじゃないんだろ?
別の人なんだろ?もっとマシなうそつかなきゃ・・・」
「かっちゃんは昔からお前のじいちゃんだぞ!」

あんずが怒ったように言う。

「お前がちゃんと、かっちゃんの話を聞こうとしないからいけないんだっ!」
「だ、だってどうしたって信じられるはず無いじゃないか!」
「聞きもしないのに信じるとか信じないとかいうなっ」

すると、桂があんずの肩に手を置いた。そして、諭すようにこう言った。

「いいよ、あんず。」
「かっちゃんも甘いよ!無理やりにでも話そうとしなきゃ!」
「もちろん。」
「え・・・」
「聞くな?透」
「え」
「聞くよな?」
「いや」
「聞いてくれるよな?」
「その」
「聞け」
「ぅお・・・」
強い圧迫(脅迫?)に透は屈した。
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