座敷童子

第四話「一族」

半ば強引に居間に連れ戻され、透は座布団に座った。

(明日は夏期講習のテストがあるのに・・・)

そんなことを考えながら、チラと少女の顔を見る。
幼いが整った綺麗な顔立ちである。艶やかで豊かな黒髪は肩の辺りまで伸びており、それが
白い肌と対照的で、美しく映えていた。
(この子・・・)

透は一瞬首をかしげる。

(なんでココにいるんだろ)
「とーる!」
「はぃうっ!?」
突然大きな声で名前を叫ばれて、思わず声が裏返る。
「あんずの顔、何かついてる?」
「え?」
「ずっと見てたでしょ」
(そんなに長く見てたかなあ・・・)

幼い少女は視線に敏感なのであろうか。それとも、チラ見をしていたつもりが、凝視してしまっ
ていたのだろうか。

「い、いや・・・・」
「顔に何かついてる?」
「ははは、目と鼻と口と耳が付いてるよ」
子供向け(?) に冗談めかして笑いながら言う透。
「おお!面白い!!」
しかし、反応したのは桂だった。
「つまんないよ、透」
対象のはずだったあんずは冷めた目でこちらを見ている。
「桂じいちゃん、本当に70歳?精神年齢低いだろ」
「私の精神はいつでも青春のど真ん中だ」
どこだ、それ。
「そんなことより話を始めるぞ。」

桂じいちゃんとあんずは、透の向かい側に腰掛けている。
「まず、私についてだが、さっきも話したとおり、私は死んでいる」
「お前はすでに死んでいる」
「アニメの名ゼリフでツっ込むな、透」
「・・・・」
少しすねる透クン。
「死んでいたというが、それは、われら一族の運命でもある。一応言っておくが、われらというの
は、おまえの母さんも含まれているぞ。いいな?」
「・・・・」
「なんだ、どうした」
「お前はすでに死んでいる」
「話を続けるぞ。その運命とはな、『樹とほぼ同じ性質を持った体で産まれる』ということだ。お
前も中学生なら知っていようが、樹は半永久的に細胞分裂を繰り返す。
われらはその樹の細胞を半分だけ持ち合わせているのだ。
もちろんあと半分は人間の細胞だがな」
「樹の細胞が体の中に入ってる?ということは葉っぱがニョキっとでてきたりするのか?」
「残念ながらわれらに葉緑素はないな」
「じゃあ花」
「咲かないぞ。頭の上に花を咲かせるシュミを先代は持っていなかったと思うぞ」
「つまらない・・・」
「つまらないじゃない。それで、昨年、私の人間としての細胞は死んだ。だが樹の細胞は残って
いる。さっき見ただろう?私から血は流れない。樹液が流れる。」
「樹みたいに何百年も生き続けるのか?」
「そこまではいかないと思うが、あと40年くらいは生きるだろうな。それに合わせて体も心も40
歳若返ったぞ。」
なぜか胸をそらせて威張るじいちゃん。
「じいちゃんと同じ一族ってことは母さんも・・・人間としての役目が終わったら40歳若返るって
こと?」
「そうなるな」
「・・じゃあ俺が母さんより先に死んじまうかもしれないのか・・・」
「それは無い」
聞いて透は一笑した。
「いくら桂じいちゃんでも断言できるはず無いだろ?」
「お前もわが一族の一人じゃないか」
「ああ一族、一族。そう・・・・・・・いっ!?」
思わず声を張り上げてしまう。
「お、俺も一族なのかっ!?」
「当然だろう。お前の母さんが一族の者ならお前も仲間だ」
「俺も普通の人間+40年!?」
「さてな。もしかしたら明日死ぬかもしれんがな。はははは」
どういう笑いだ。
「でもなんだってそんな運命が・・・」
「そうだな・・・それは後々わかるだろう。急いて知ることは無い。さて―――」
桂じいちゃんはチラリと横を見る。
「お次はあんずのことを話さなくちゃいけないな」
名前を口に出されて我に返ったのか、さっきまでボウと話を聞いていたあんずが透に言った。
「とーるは、あんずのこと知りたいか?」
「え、あ・・・」

実はそっちのほうがさっきから気になっている。
樹だの細胞だの、まだ関係ないように思われることより、この少女の壁抜けがいまだに気にか
かる。しかも「小さい頃から自分を知っている」だが「自分には見えていなかった」だけ・・・

「とても知りたい」
そう付け加えると、あんずは笑いながら座布団からピョンと立ち上がり、透の前に立ちふさがっ
た。
「・・・?」
「とーる!アタシが話すから寝ちゃだめだぞ!」
「ね、寝ないよ」
「嘘だあ!桂じいが話してるときからずっと眠そう!」
「え」
「ほーぉ・・・そうだったのか透」
目を細めながら桂じいちゃんがこちらを見ている。
「い、いや、聞いてたぞ」
「ホントかなあ〜?」
「うんうん、本当!」
すると、あんずはニコッと笑った。
「じゃあ話す!」
「(ホ・・・)」
「質問っ!とーるは、あんずを覚えてないの?」
「え?あ、うん・・」
「ふ―ん・・・。じゃあ質問っ!とーるは人間?妖怪?」
「え!?・・・っと」
さっきまでは100%人間のつもりでいたのだが・・・ιどうなんだろうと桂じいの方をチラリと一
瞥する。桂じいは透の視線に気づいて「さあ?」といったポーズを取った。
「ち、中間・・・?」
とりあえずそう答えておこう。
「ふ―ん・・・あんずはね、妖怪なの」
「!?」 
明るい声とは裏腹に飛び出した言葉は、透を現実に引き戻したような気がした。
と、同時に、あんず(というより妖怪という言葉)に対する恐怖心が沸き起こる。
「よう、かい?」
「そう!妖怪」
すると、今まで黙っていた桂が口を開いた。
「岩手県を中心とする東北地方で、旧家の奥座敷などに住む妖怪。赤ら顔で、おかっぱ頭の子
供の姿だという。その家の運勢に関係を持つと言われる・・・」
淡々と説明する桂の言葉に、透は聞き覚えがあった。

座敷童子―――――――

名前を知っているだけで姿を見たことは無い。
子供の妖怪・・・

「妖怪なんていないと思ってたでしょ。とーる」
「い、いや・・・」
俺も妖怪みたいなもんだから、と言いかけて口をつぐむ。
頭では理解していたつもりだったが、口に出す勇気が無かった。

「オカルト部に・・・入ってたから」
精一杯の言葉。
「え?とーる、おかると部ってなに?」
「妖怪や幽霊やUFOの存在を信じて研究する部活のこと・・・かな?」
「なんだ!とーる、あんずのこと知ってたんだね!」
「え」
「ねーねー、今も入ってる?おかとる部」
「お、オカルトね。今は・・・」
「まだ入ってたよな?」
そう言ったのはあんずでは無く、桂じいちゃんである。
「いや」
「お前の母さんからいろいろ聞いてるが、部長やってたな。確か。」
「今は」
「ぶちょ?ぶちょって何?」
「部長っていうのは、その仲間たちの中で一番偉い人のことさ」
「ホントー!!とーる、ぶちょーなの!スッゴイんだね!」
「ふ、二人とも人の話を聞け!」
思わず透は大声を出してしまった。
「なんだ、透。」
「俺はもうオカルト部には入ってない。辞めた」
「え・・・?」
その言葉を聞いて、あんずが何故か寂しそうな表情を見せた。
「とーる、辞めたの?なんで?」
「勉強が大事だから」
「べんきょう?あんずより勉強が大事?」
「へ!?」
予想外の言葉に目を丸くする透。
「あんず、とーるに知ってもらえなくなる?」
「え、あ?い、いや・・・」
「とーるはあんずが嫌いなんだね・・・」
横では桂が不気味な笑いを浮かべていた。
「罪なやつだねえ」
「じいちゃんまで・・・」
「・・・・」
そして、とうとうあんずは黙り込んでしまった。
「ち、違う、違うよ、あんず」
「・・・何が?」
「あー・・・やめてないやめてない!そう!やめてなかったんだ!あっはははは」
その場しのぎで咄嗟に出た言葉。
「・・・・」
こんなんじゃうそだって・・・バレるか?
「ホント!?とーる、まだぶちょー?」
「え、あ、うん、うん、そう・・・」

「なんだー!あんず、ビックリしたよ!!」
「は、はははは」
冷めた笑いを繰り返す透に桂が話しかけた。
「というわけで、あんずは座敷童子。妖怪だ。質問は?」
「質問・・・」

すべてのことが驚きの連続で、透には何を信じたらよいのか、何を疑ったらよいのか区別がつ
かなくなっていた。

(まあ、こんな古い家だもんな、お化けの一匹や二匹いて当然か・・・それに)
嬉しそうに笑うあんずを見て透は思った。






(こんな座敷童子なら、まあいいか)
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