座敷童子
第六話「さら」
そう言うと、時子は透の手をギュッと握った。
「宜しくね・・・」
そうして今度は甘ったるい声で透の目をジッと見る。
その吸い込まれるような瞳に透は体がこわばった。
(うわ・・・)
さっきまでのだらけた感じはどこへやら、時子ははだけた肩もそのままに、透の手を握ったま
ま離さない。
(女の子に手を握られるなんて、姉さんくらいしか・・・なかったような・・・)
そこまで考えて透は空しくなってきたので考えるのをやめた。
「あ、あの・・・」
「ん?」
「手・・・」
とりあえず、この良い雰囲気も捨てがたいが、あんずがあきれた顔で見ていたので離してくれ
るようニュアンスを含めて言ってみる。
しかし。
「なに?透クン・・・手をどうして欲しいの?」
「えっ、あ、いやっ・・・手を・・・」
(だめだ!!!!)
透の目は完全に時子の肌へと注がれてしまう。
(ああっ、あんずがっ、あんな目で俺を見てるッ)
「透クン・・・・?これからあたし、お風呂入るんだけど・・・」
「あ、はい、・・・」
「一緒に入る?」
ぶうっ
「はははは、、はいっ!!??」
「一緒に・・・はいろ?」
「とと時子さんッ!!??」
「なんだ、だめなの?あんずみたいな子のが、良い?」
「あたしは嫌だ」
(うわ、なんかあんず機嫌悪くなってるよッι)
「ね・・・?」
「いや、あのッ、俺。そーゆー。その、受験生ですしッ、そーゆーコトにはっ」
目線を四方八方に飛ばしながら慌てふためく透。
そんな透を時子はしばらく黙って見ていたが、やがて
「あははははは!!!!!!」
「っ・・・た、て、とと時子さんっ・・・?
「あはははは!!なんじゃそりゃあーー!!」
「へ」
「『受験勉強ですしッ!!!』てナニ!!??」
「いや、本当のことだ・・・し」
時子はスルリと手を離して言った。
「惜しかったわねえ、もう少しアンタが男子の本能持ってたら胸タッチくらいは出来たのにねえ」
「ななな、ナニ言ってるんですか!?」
「あ、やっぱりタッチしたかった?」
「違いますよッ!!俺はそんなことには興味ないです!」
少し膨れて言う透。時子はその顔にゆっくり自分の顔を近づけた。
「へえ・・・」
「・・・?」
「可愛い顔してるのねえ」
そう言ってクイと顎を指で上げた。
「うわッ!!」
「今どき純粋だし、顔も可愛いし、背もまあまあ高いし・・・どう?こんなおねーさんは」
「ななな、ナニをっ!?」
「あはははは!!!かあいーーーっ!!照れてる照れてるっ」
「お・ね・え・ち・ゃ・んっ」
「・・・あ?」
「フザけるのはやめて、さっさと風呂入ってきたらどうよッ」
「あんず、なんで機嫌悪いのよ」
「お姉ちゃんがいつまでもいつまでも、とーるにひっついてるからでしょおっ」
「ヤダこの子!若いクセして生意気にもやきもち焼いてるッ」
「ちがーーうっ!そーゆー意味じゃないッ!もう、いいから風呂はいんなよッ。かっちゃん呼んで
たよ」
すると、時子は、かったるそうに腰を上げた。
そしてアクビを一つ。
「透」
「え?」
「一緒に入る?」
「入りませんっ」
あははは、と笑って時子は着物を直しながら階段をタタタと下りていった。
「ったく、なんなんだ、あの人・・・」
「・・・・」
「あ」
そういえば・・・・ι
「とーる、あとで夕食作るから下に来てね vV 」
「あ、ああ」
「絶対ね」
「ああ・・・」
あんずはそれだけ言うと身を翻して階段を無言で降りていった。
(夕食って・・・当番制みたいになってるのかな・・・)
「とりあえず持ってきたものを使いやすいように整頓しなきゃな・・・」
隅にあったタンスの棚を引き出した。
制服・・・ネクタイ・・・シャツ・・・校章・・・ズボンにベルト・・・はこの段。
これは中学の学生証、こっちは予備校の学生証・・・
私服も何着か持ってきたし・・・・
靴下・・・はこの段にしまうか。
えっと・・・教科書やノートはこの一番大きな段かな。
そう言って一番下の大きな段を引いた瞬間。
「あいたっ」
「?」
何かがつっかえて引き出しが引けない。
しかも、何か声がしたような・・・
「何か詰まってるのかな?」
もう一度グイと引いてみる。すると、
「あいたっ」
「!!?」
確かに声が聞こえた。
透は驚いてタンスの前から逃げた。
「な。ななな、なんだあ!!??」
「すみませ〜ん、一度押してください〜」
今度はハッキリとした声が聞こえた。
ここまで鮮明に聞こえると気味悪いも何もなくなってしまった。
「だ、誰ですか?」
「だれですかあ〜押してください〜」
「あ、はい」
とりあえず引き出しを押してみる。
「大丈夫ですか〜?」
うーん、なんて冷静なんだ俺って・・・・
しかし、いくら待っても返答がない。
やはり幻聴とかだったのだろうか?
(どうしたんだろう)
そう透が心配そうにタンスとにらめっこをしていると。
「ごめんなさぁぁいい」
「うわああっ」
突然タンスの横の壁から声がして、それと同時に壁から顔だけが出てきた。
「壁抜け移動していたらいつのまにやらあんな場所に足が挟まってしまいまして〜」
「は、はい、足だけが、」
「皆さんを呼んでみたんですが誰もいらっしゃらなくて〜」
「そ、そうです、ね、みなさん・・・ね、」
「助けていただいて有難うございます〜ところで・・・」
「な、なんです、すか?」
「どちら様ですか?」
質問するのが遅い。
「き、今日からこの家にお世話になることになりました・・・島村透で、す」
「透さんですか〜私はさらです〜」
「皿さん・・・」
「はい、さらです」
冗談を無視されてしまった・・・・それとも気がつかないだけなのか。
「えと・・・さらさんも座敷童子・・・」
「いえいえ、私は違いますー」
「あ、そう、ですか・・・っていい加減壁から顔だけを出すのはやめてもらえませんかι」
すると、さらはハッとしたような表情をした。
「もしかして怖いですか・・・?」
「か、かなり怖いです」
「そうですか〜では手と足を出しますね」
にょにょにょ
それはあんずが出てきたのと同じような感じで。
「これで怖くないですね〜」
「あ、はい・・・」
「では、夕食の支度をするのでまたあとでー」
「はい・・・?」
そらはそのまま階段をスタスタと降りていった。
「あの子は・・・」
これが、透と三人の少女の出会いであった――――――
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